SEDIMENTOLOGY Lab.

Kyoto University

Research Topics


地層が形成されるメカニズムの研究を行っています。 特に興味を持っているのは、堆積物重力流のダイナミクスと堆積作用(タービダイト堆積学)です。 野外調査・微細組織観察・水槽実験・数値計算などの手法を組み合わせ、堆積学(Sedimentology)と、 地形ダイナミクス(Morphodynamics)を融合させることで、新しい地球観を見つけることを目標としていいます。




Sediment gravity flows

水深1,000メートル以上の深い海の底を調べてみると、驚くべきことに、巨大な川や扇状地のような地形がしばしば見つかります。 その長さは数百キロメートルにも及びます。大陸棚から続く海底の斜面には深い谷(海底谷)が発達しており、その谷からは、深海の川(海底チャネル)が蛇行しながら延々と続いています。これらの海底チャネルには、陸上の川と同じように自然堤防や、放棄された流路(三日月湖)も見られるのです。 しかし、周囲はすべて海水で満たされているのに、この深海の「川」には一体何が流れているのでしょうか?実は、この海底チャネルは、数年から数百年に一度だけ起こる「堆積物重力流」という特殊な流れによって作られたと考えられています。 「堆積物重力流」とは、簡単に言うと、水中の"濁った水"の流れです。 例えば、海底で地滑りが起きたり、大雨や洪水で増水した川から泥水が海に流れ込んだりすると、海の中には砂や泥で濁った水が発生します。陸上では、砂ぼこりが舞い上がってもすぐに地面に落ち、短時間で消えてしまいますが、水中では浮力や水の粘り気があるため、一度舞い上がった砂や泥はなかなか沈みません。 この濁り水は、周囲の水よりも砂や泥の分だけ密度が高くなるため、重力によって斜面の下へと流れ始めます。 これが「堆積物重力流」です。
流れ始めた濁り水は、乱流によってさらに海底の堆積物を巻き上げたり、内部の砂や泥の粒同士がぶつかり合ったりすることで、濁りをより長い時間保つようになります。 その結果、時にはこの堆積物重力流が数百キロメートルにわたって海中を流れ続けることがあります。 その流れる速さは秒速18メートル(時速65キロメートル)にも達し、実際に海底ケーブルを切断しながら13時間以上も流れ続けたという記録も残っています。 このようにして、深い海の底にまるで陸上の川のような地形が形成されるのです。深海にはまだまだ未知の世界が広がっており、私たちの想像を超えるダイナミックな自然現象が起きています。 もし、海の神秘や地球のダイナミックな動きに興味があるなら、ぜひこの分野を探求してみてください!

タービダイト@根室層群1
タービダイト@根室層群
turb2dによる東北沖における混濁流モデリング

Tsunamis

津波は地震発生時の隆起運動や、火山噴火や地すべりに伴うマスムーブメントによって発生します。 津波は水深が深いほど速く伝わるため、海溝付近で1m程度の波であった場合でも沿岸付近では、 後から伝わる波が追いつくことで数十mまで高い波になることがあります。 2011年東北沖太平洋地震や2024年能登半島地震では地震に伴う津波で大きな被害を受けました。 日本周辺は千島海溝、日本海溝、相模トラフ、南海トラフ、琉球海溝といった沈み込み帯、 日本海側には沿岸に近い活断層が数多く分布しており、地震を引き起こす断層に囲まれています。 こうした津波を引き起こす地震の発生は繰り返し性があることが知られており、 地震履歴を調べることで次の地震・津波災害に備える必要があります. 過去の地震や津波を知る方法としては、観測記録・古文書や地質痕跡が挙げられます。 しかしながら,こうした大きな地震の発生間隔は数百から数千年であることから、 古文書の存在しないほど古い時代では地質痕跡から調べる必要があります。
過去の津波を知る手掛かりとなるのが“津波堆積物”です。 津波堆積物は文字通り津波が運んだ礫、砂、泥などであり、多くは砂浜を侵食して供給されます。 細粒な津波堆積物は津波の浸水限界付近まで運ばれることから、地層中からこれらを観察し、 対比することで過去の津波浸水範囲を知ることができます。 しかしながら、沿岸域の地形や堆積物のに多様性があり、どのような津波でどのような堆積物が形成されるかは、 まだ未解明である点が多く残されています。 この研究室では最近発生した津波(2004年スマトラ、2011年東北、2024年能登)による堆積物を調査することで、 堆積物の特徴が津波の水理条件をどのように反映しているか調べています。 特に、津波堆積物の層厚と粒度から津波の流速や波高、浸水距離を数値計算と深層学習を組み合わせて求める手法を開発している。 堆積物から過去の最大規模の津波や地震を復元することで、将来の自然災害予測に貢献できるかもしれません。

2011年東北沖地震による津波跡
2024年能登半島地震の津波堆積物
ドローン撮影

Bedrock River

地球の表面は常に変化しています。山が高くなったり、地震が起きたり、河川の流向が変わったりします。 これらの現象の背後には、地殻の「隆起」という動きがあります。 隆起とは、地殻がゆっくりと持ち上がる動きのことであり、これを理解することは地震や火山活動、さらには過去の気候変動を解明する鍵となります。 日本は地震や火山活動が活発であり、地殻の動きの変化が大きい国です。そのため、日本列島の地殻がどのように動いてきたのかを知ることは重要です。 これまで、過去の地殻の動きを知るためにさまざまな方法が使われてきました。 しかし、既存の方法では長期的・広域的な隆起の履歴を知ることが難しかったのです。
そこで、近年は「河川地形」に注目した研究が多く行われています。 河川は山から海へと流れますが、その流れ方や河床の形は、地殻の隆起や侵食の影響を受けています。 特に、河川がどのように削られていくかを物理的な過程に基づいたモデルで表すことで、過去の地殻の動きを逆算できるのです。 過去の隆起の歴史を復元するためのフォワードモデルとして「ストリームパワーモデル」がよく用いられています。 これは、河川の水量や河床の勾配が、河床の岩盤をどれだけ削るかを決めると仮定したモデルです。 さらに、この方法を進化させて、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)という統計的な手法を使うことで、より正確に地殻の隆起の歴史を推定できるようになりました。 私たちの研究では、ストリームパワーモデルのような岩盤河川侵食モデルを初めて日本の河川に適用し、 これまでに、紀伊半島や四国、東北地方の河川において隆起の歴史の推定を行ってきました。 今後はより複雑なモデルを適用することで、日本列島の地殻の動きの変化を明確にしようとしています。 地球科学は、私たちの住む地球がどのように動き、変化しているのかを探る学問です。 河川の流れや山の高さなど身近な自然現象から地球の大きな仕組みを知ることができます

東北地方の岩盤河川

Bedform

川や海の底には、水の流れと土砂の動きが組み合わさってできる「ベッドフォーム」と呼ばれる地形があります。 リップルやデューンはその代表的な例で、これらは水の流れの速さや土砂の粒の大きさによって形や大きさが変わります。ベッドフォームの大きさは、数ミリから数百メートルまでさまざまです。 たとえば、川底にできるリップルやデューンは、比較的ゆっくりとした流れの中で形成されます。一方、深い海の底では、混濁流と呼ばれる重力流が流れと逆向きに移動するベッドフォームを作り出すこともあります。 ベッドフォームの種類や形成条件を理解することは、地質学や地球科学でとても重要です。 地層に残されたベッドフォームの痕跡を調べることで、過去の水の流れや環境を推測する手がかりになります。 例えば、下流に向かって傾いた地層は、リップルやデューンが移動した証拠であり、平行な地層は安定した流れを示しています。 また、ベッドフォームの研究は河川の管理にも役立ちます。川底の地形が水の抵抗に影響を与えるため、ベッドフォームの形成を予測することで、洪水対策や水資源の管理に活用できます。 最近の研究では、これまであまり注目されてこなかった特殊なベッドフォームにも関心が高まっています。たとえば、泥と砂が混ざった場所で形成されるベッドフォームや、火星など他の惑星で見られる地形です。 これらの新しい発見は、従来の知識を広げ、より包括的な地形形成の理解につながっています。 ベッドフォームの研究は、水と土砂が織りなす自然のパターンを解き明かすもので、地球や他の惑星の歴史を知る鍵となります。地球の不思議や自然現象に興味があるなら、この分野を探求してみてはいかがでしょうか。

タービダイト@根室層群
タービダイト@根室層群
リップル形成のモデリング

Bioturbation

皆さんは、海底の岩石に古代の生物が残した足跡が刻まれていることをご存知ですか?これらの足跡は「生痕化石」と呼ばれ、生物が活動した痕跡がそのまま岩石に保存されたものです。 生痕化石を調べることで、過去の環境や生物の生活様式を知る手がかりとなります。 その中でも、「バイオターベーション(生物攪乱)」という現象があります。 これは、底生生物が泥や砂を掘ったり、食べたり、移動したりすることで、堆積物がかき混ぜられることを指します。 バイオターベーションの程度を調べることで、過去の海底環境、例えば堆積速度や有機物の供給量、生物の多様性などを推測することができます。
しかし、バイオターベーションの痕跡を詳しく調べるのは大変な作業です。なぜなら、地層の中で特定の生痕化石を見つけ出し、その分布や量を正確に測るには、多くの時間と労力が必要だからです。 そこで、画像解析の技術を使って、生痕化石を自動的に検出し、バイオターベーションの強さを効率的に測定する手法を試みています。 これにより、より多くのデータを迅速に集めることができ、過去の環境変動や生物の活動パターンを詳しく解明できるようになります。 生痕化石やバイオターベーションの研究は、地球の歴史や生命の進化、生物と環境の関わりを理解する上でとても重要です。 皆さんも、もし地球科学や生物学に興味があれば、この分野を探求してみてはいかがでしょうか。古代の生物たちが残したメッセージを解き明かす、ワクワクするような発見が待っています!

バイオターベーション@浦幌層群
バイオターベーション@浦幌層群

Machine Learning

人工知能(AI)や深層学習(ディープラーニング)という言葉を聞いたことがありますか?これらは、コンピューターが大量のデータからパターンを学習し、さまざまな問題を解決するための先端技術です。 この技術が、実は地球の歴史を探る「堆積学」という学問分野でも活用することが可能です。 これにより、過去の環境変動や地球の歴史、さらには地震や津波などの自然災害の痕跡を明らかにすることができます。 堆積学研究室では、この堆積学に深層学習を組み合わせた研究を行っています。地層や岩石の画像データを深層学習モデルに入力し、自動的に特徴を抽出・分類します。 これにより、人間が時間をかけて行っていた地層の解析が、より迅速かつ正確に行えるようになります。 具体的には、以下のような成果があります:
堆積構造の自動検出:古代の生物が残した足跡や巣穴などの生痕化石や水の流れで運ばれた砂粒を、地層の画像から深層学習を用いて自動的に測定・カウントします。これにより、過去の生物活動や堆積環境を効率的に解明できます。
古水理条件の推定:津波や混濁流などの大規模な水の流れによって形成された堆積物の情報と数値モデリングを組み合わせることで流れの速さや大きさを推定することが可能です。これにより、過去に起こった自然災害の記録を詳しく調べることができます。
地層・地形の分類:大量の地層断面や地形データを学習することで、異なる環境で形成された地層や地形を定量的に分類します。これにより、地球の歴史や環境の変動、水理条件などの詳細な復元が可能になります。
これらの研究は、深層学習のパワーを活かして、これまで困難だったデータ解析を飛躍的に進めています。これは、地球科学の新しい可能性を開くとともに、将来の自然災害の予測や対策にもつながる重要な取り組みです。 皆さんも、AIや地球科学に興味があれば、この最先端の研究分野に触れてみてはいかがでしょうか?深層学習と地球科学データを結びつけることで、新しい発見や驚きがきっと待っています。

Deep neural networkの構造
画像認識による粒子配列の検出例